「ただいま。」
「あ、お帰り。って、ちょっと!ずぶ濡れじゃない!待って待って、そのままそこにいて。」
途中で傘を買えば良かったのだが、そのまま雨に打たれて帰ってきた。
賃貸マンションの2階の一室で、夏は恋人と住んでいた。
タオルを持ってきた恋人はもうすぐ結婚する。
夏と、ではない。
「もう、途中で傘買えばよかったのに。はい、そのままお風呂場に直行してっ!」
体の雫を拭い、言われた通り靴下を脱いでお風呂場に直行した。
浴室の扉を開けると、白く視界がぼやける。
どうやらお湯をはってくれたらしい。
気さくな人柄と屈託のない笑顔が可愛くて、7年前から付き合っている恋人。
気が利く彼女なら、家庭を守る若奥さんという役割もうまくこなせるだろう。
湯舟には半分くらいお湯が溜まっていた。蛇口を捻り、湯舟に入った。
体積分の水位が上がり、胸元まで湯につかる。
はぁ、
とため息が漏れる。
誰もがそうするように。
7年という年月は恋人期間としては長いらしい。
いつまでもプロポーズしない夏に、痺れを切らして彼女の方から求婚されたのは2年前。
保留にしたままずるずるとここまで来た。
このまま続いていくと思い込んでいたが、
呆気なく、彼女はピリオドを打った。
見合いをし、どこぞの御曹司と結婚する。
何度か会っただけの、キスもセックスもしたことがない相手と、結婚する。
女とはしたたかだ。


