有料散歩




「…来月からね、息子が住む家の家事をお任せしたいのですけれど。」

微笑みながらも、その奥に不安の色が見え出した。

「息子は生れつき心臓が弱いものですから…。」

語尾が弱まり聞き取りづらい。


「住み込みでもかまわないとのことでしたよねぇ。」

「はい。」

「もちろん、今お勤めされている所よりも報酬は出しますから。」


今の勤め先も、夏を指名して高い報酬を出していた。
よっぽど気に入られたらしい。
自分のどこにそんな要素があるのか解らない。夏にとってはとりあえず与えられた仕事をただ受けている、というだけだった。




「息子は、春樹、と申しますけれど、」

冬生まれなんですよ、と女性が口元に手を添えて笑った。
過保護に育てられているんだな、とその仕草だけでも判ってしまう。

「それで、この前…主治医の先生にねぇ…。」

目を臥せ、言い澱む。先ほどまでゆったりゆったりと、でも規則正しく流れていた時間が狂い始めたように感じた。

まるで電池が切れそうな腕時計。吹けば飛ぶほど軽やかな秒針が、何かベタベタしたものに囚われたかのよう。そして遂には止まるのだ。



「とうとう余命を宣告されてしまって…、」

泣き出しそうな女性を前に、夏は絶句した。

関わりたくない。
断ろうか、と。