「なんてことじゃ!!なんてことじゃぁ!!!」
頭から血を流し青年は田んぼの泥を掻いていた。
泥はすくってもすくっても、横から崩れてくる。
雨が、血と共に額を流れていた。
ふと、必死な青年の手に暖かいものが触れる。
女学生の左腕だった。
泥を掻き分け、腕を引っ張った。
力無く伸びる腕の先に、
青年は叫ぶ。
「千代!千代!今っ、今すぐ助けるっ!!
頑張るんじゃっ!!」
一瞬、生気の戻った掌が、
青年の腕を強く握ったが、
そのままぱたんと尽きた。
ギリギリ、ギリギリと。
青年は奥歯を噛む。
「…っ。」
涙なのか、雨なのか、それとも流れ出る血なのか。
熱いのか、冷たいのか。
青年には頬を伝う雫がなんなのか分からない。でももうそんなことどうでもいい。
激情に任せて唸った。
「―なんっ、なんてことじゃぁっ!!
相棒っ!!
お前が、お前が、
千代を死なすんがぁっ?!
お前が!
…千代…を!
わしゃ…、許さんがぁ!
千代の上から早う退けぇっ!!!」
ああ、
と春樹は無感情のまま息を吐いた。
バスが死ぬ。
悲しくもなんともないが、酷く胸が苦しくなった。
ああ、バスも死ぬ。
春樹は夢の中の夢から覚めるべく、
そっと目を閉じた。


