「俺は…春樹くんと、楽しい思い出をたくさん作りたいよ。」
春樹の鼓動が機械音になって響く病室へ向かって、夏がささやいた。
「ええ、そうしてほしいです。」
喜美子が力強く頷く。
「だから、生きてくれ。」
まるで返事をするように、春樹の鼓動が一度強くなった。
それを確かめた喜美子が、深く息を吸って夏に言った。
「但野さん…、春樹にペースメーカーをつけようと思うんです。」
「え…、」
「今までは、心臓が治るのならそれに越したことはないと思っていましたの。ペースメーカーをつけてしまえば、日常生活も気をつけなければいけないことがたくさん出ますし。そもそも、体に機械を入れるわけですから…、負担は大きくなるんですもの…、」
「なら…、」
「でももう、春樹の心臓は機能しなくなる寸前なんです…。房室ブロックもⅡ度…、」
春樹の脈は異常なほど少ない。
「では、アダムス・ストークス…、酷くなれば…突然…、」
今回、突然失神し、心拍停止した症状はそのせいだ。
「ええ。もう決断しなければいけませんね。」
「しかし…!」
春樹の病気を聞いていた夏にとっては、その決断があまりにも危険に思えた。
「難しい手術になることはわかっているんですのよ。あの子の体が堪えられるかどうか…、細すぎる血管が手術適応するかどうか…、」
「……、」
夏が押し黙る。
考えた末の決断だ。
夏に言えることはない。
それに、夏だって春樹が生きていてくれることを望んでいるのだから。


