「上手いこと化学反応は起こらなかったわけか…、」
意味不明な夏の言葉に首をひねる。
「何が?」
「基本的に、俺は拒否反応しか起こせないんだよね。…あの粒飲むと。」
「え?だから何が言いたいのか…、僕に解るように言ってよ。」
「だからぁ、春樹くんは融合してなんらかの結果を生み出せるかと思ったんだよ。でも、出ないんだろ?」
「…は?」
「…おじいちゃんの思い出!そっから何かわかったの?」
「…それはまだ聞かない約束。」
「頑固だなぁ。一人で悩んでるから、俺は心配なわけ。ね?」
「…もうちょっとなんだ。」
「もうちょっと?」
「僕、今まで感じたこともなかったから。」
「何を?」
「憎しみ。」
「憎しみ…?」
「辛いとか、悲しいとか、そういうのも混じってるけど、憎しみそのものって今まで感じたことない。それを向けられたこともない。だから、…どうすれば昇華するかを考えてるんだよ。…おじいちゃんがそれを望んでたんだ。」
「憎しみを、昇華、ね。」
「…それが、約束を果たすことなんだよ。」
拒絶でもなく、融合でもなく、昇華。
化学のテキストに載っているその言葉のそのままの意味では、解決しない心の化学反応。
春樹が試みているのは、フラスコも試験管も使わない実験。
「何の話し?」
お風呂からあがり、ゆるく湯気がたっている体をソファーに沈めてゆきが問う。
「…もうちょっとなんだ。」
と、春樹。
「…?」
夏が、二人に気づかれないように笑った。


