込み上げる涙を堪えていると、不意に影が出来る。そして頭上から今は1番聞きたくない声が聞こえた。
「菜乃子ちゃん…?」
「須賀、部長」
本当に、会いたくなかった。タイミング悪い、な。
「どうしたの?血、出てるけど」
「あはは…。ちょっと躓いて、転んじゃって…」
好き。
「大丈夫?保健室、行く?」
「大丈夫ですよ。たかが転んだだけですし」
好き、です。好きです。
「須賀部長は、心配性ですね!」
「あはは。よく言われる」
好き。大好きです。
「それより、何か用事あったんですか?荷物いっぱい持ってますけど…」
「ああ、これは先生に持ってくやつ。…それじゃあ菜乃子ちゃん、また部活でね」
―――この気持ちを吐き出せたら、どんなに楽か。今、言ってしまおうか。
「須、賀部長!」
「?」
「……っ、さよなら、」
「ばいばい」
須賀部長はわたしに小さく手を振ると、職員室に向かって歩き出した。背中がどんどん小さくなる。行ってしまう。
「……うっ…ぁ…っ」
須賀部長の前でよく泣く事を我慢できたな。
えらいじゃん、わたし。
頑張ったじゃん、わたし。
わたしの鳴咽は、冷たい廊下が静かに飲み込んでいった。
