わたしが保健室を出たのはそれから数十分経った後だった。目の前の現実に思考がついていかなくてその場から動く事が出来なかった。
動き出したのは、保健室の先生が職員会議から戻って来てからだった。
「あら菜乃子さんじゃない。また具合悪くなっちゃったの?」
「あ、いや…」
「顔色、あんまりよくないみたいだけど…?少し休んで行く?」
「いえ、大丈夫です…っ」
深く追求されるのが怖くて、走って保健室を出た。
先生には怪しまれたと思う。教師がいない合間に保健室に居たのだから。仕方がない。
『じゃあ、…付き合おっか』
あー、何この感情は。
こんなの、知らない。知らないよ。
『菜乃子』
「っ…、……ぅ、わ!!」
ベタッ!と何もない廊下でわたしは勢いよく転ぶ。痛い。ひざ頭にじんわり熱が集まる。
「…いた、い」
ゆっくりとした動作で起き上がり、じわじわと痛みを孕むひざ頭を見た。赤いそれはわたしのひざ頭から流れて廊下に斑点をぽつり、と一つ作った。…あーあ。血ぃ出ちゃった。
立ち上がる元気もなくて、その場に座り込む。動きたくなかった。
「もう…やだ」
声がかすれる。また泣きそうになっている自分が、嫌だった。
