それじゃあ、と未だ掴んでいたわたしのネクタイをグイと自分の方へ近付けた。また顔と顔の距離が短くなった。
「じゃあ、…付き合おっか」
「…う、ん」
須賀部長の顔がさっきから頭の中でちらついている。笑った顔も、困った顔も、驚いた顔も、真剣な顔も、全部、全部今は思い出したくないのに。思い出したくなんかないのに。
苦しい。苦しい。
息が詰まりそう。
「菜乃子」
そういえば、藤田君って最初から名前呼びだよな。先輩の事を忘れようと別の事を考えていると、またネクタイが引っ張られる。
「!」
顔がさっきよりも近付いて、わたしの唇に温かいものが触れた。そして、ちゅっ、とかわいらしい音をたてて離れた。
キス、された。
そう理解するのにはさして時間はかからなかった。
藤田君を見れば、彼はニヤリ、と口端をあげて笑っていた。
彼の手からパッ、とネクタイが離れてベッドからおりた。
また、明日。わたしの耳元でそう囁くと先に保健室から出て行った。
わたしはそっ、と自分の唇に触れた。
酷く、冷たかった。
