時間が一瞬、止まった気がした。頭だけはなんとか動いているものの、今までにないくらい混乱していた。
今まで、余り直視しないように逃げていた現実が、今、わたしに襲い掛かっている。

「……っ、…」

嘘だ。そんなの、嘘。ななちゃんが死んだなんて、嘘。
そう言いたかったけど、口の中はカラカラに渇き、たどたどしい空気だけが吐き出される。

心臓の音だけが、正常にわたしの耳に滑り込む。
思っていた以上に心臓は穏やかで、怖かった。

「……んじゃ、俺行くわ」

ニヤリ、と意味深に相手は笑い、カーテンを静かに閉めた。

「っま……」

待って。と呼び止めようとしたけれど、言葉が思うように発する事ができない。結局、最初の“ま”だけが唇から零れ落ちた。
せめて追いかけよう、と思ったけど、身体は鈍りのように重く、苦しい。動かない。まるで自分の身体が自分の身体じゃないみたいで気持ち悪い。
これじゃあ全然駄目じゃないか。わたしって、駄目な奴。


暫くして保健室の扉が開く音が耳に飛び込んできた。
待って。ななちゃんが死んだって、どういうこと?
待って。待ってよ。

言えたらいいのに、結局言えず終い。保健室のドアはパタン、と小さな音を起ててわたしとななちゃんをまたひとつ、引き離した。