お隣りのあなた。



相手の男子生徒は驚いたようにしばしわたしを見た。わたしも、視線を反らさず相手を見返す。
この人は何か知っている、と確信も無しに思った。だから尚更この掴んだ手を離せないでいた。
些細な情報でもよかった。ななちゃんの事を、なんでもいい。教えてほしかった。

「あんた、」

静かに男子生徒の唇が開く。わたしは小さく息を呑んだ。

『菜乃子ちゃん』


「菜乃子っ!!」

何か言おうとした男子生徒の言葉はわたしの名前を呼んだカナによって遮られた。わたしも男子生徒もカナを想わず振り返る。

「か、カナ?」
「ほら、今日の化学、移動教室だよ?早めに行かないと!」

まるで急かすようにわたしの腕をグイ、と引っ張る。「わっ」拍子に男子生徒を掴んでいたわたしの手は簡単に解けた。
訳がわからず、カナを見る。強きなカナの瞳が、「いいから、わたしに任せときなさい」そう言っているように見えた。

わたしを見た後、カナは男子生徒を見て一言、
「失礼しましたっ」そう言ってわたしを男子生徒から引き離すように、やはりわたしの腕を掴みながら教室へ続く廊下を小走りにパタパタと駆けて言った。

本当に、あっという間の出来事だった。