朝のSHRが始まるまで、あと30分。ちょっとまずいな、このままじゃ遅刻してしまう。わかっていても急ぐ気にはなれなかった。いつもなら物凄く焦るのに。

『なずなは鳥なの』

「…ななちゃんは関係無い。関係、無い」


11年という歳月は決して短いものでは無く、ななちゃんの存在はわたしの中で日々薄れていくものだと思っていた。記憶とは、そういうものだ。いくら大事に想っていても年を重ねるにつれてどんどん忘れていってしまうもの。いつの間にか、沢山あった過去の出来事としてまとめられてしまう。

だけど、わたしの中ではななちゃんは今も昔も変わらずわたしの心に色褪せる事なくしっかりと留まっていた。

昔のななちゃんの姿だって鮮明に思い出せるし、今日のように突拍子も無く夢に出てくるものだから忘れるに忘れられない存在になっていた。それがわたしにはななちゃんがわたしに「忘れないで」と言っているように思えてしょうがない。


「関係無い……」

誰に言う訳でもなくわたしは一人ごちる。すると背後で小ばかにするような声が聞こえた。その声には聞き覚えがあった。

「何独り言いってんだよ」
「タケル…!」
「何だ?悩み事か?」

自転車に乗ってニヤニヤ笑うタケルに軽く殺意を抱いた。ぶつぶつと一人で呟いていたところをタケルに聞かれていたと思うと急に腹立たしくなってきた。