そういえば、と思い出したようにお母さんはわたしを見た。

「タケルくんは元気なの?」
「んー。元気」

お母さんはこうして時々タケルの事を思い出してはわたしに「元気?」とか「サッカーの方、どうなのかしら」とか気にしてくる。

タケルは今も昔も変わらぬお調子者でみんなからの信頼と人気を得ていた。勉強の方は余り芳しくないようでよくテストの結果を見ては唸りを上げていたが、スポーツ推薦でこの学校に入学したことはある。1年でサッカーのレギュラー選手に選ばれ、今週行われる試合にも出るらしい。試合を見に来るように誘われていたが、会場が遠いので乗り気でないのが本音だ。


携帯電話の時計は7時30分を過ぎた。そろそろ家を出なければ遅刻してしまう。タケルの事を気にかけるお母さんを無視してわたしは椅子から立ち上がった。

「ごちそうさま」
「ちょっと、サラダまた残してる。ちゃんと食べなさいっていつも…」
「行ってきまーすっ!」

まだサラダは食べかけだったがよくある事だったので余り気には留めなかった。あのまま家に居たらお母さんの説教で確実に10分は潰れるのは間違いない。わたしは逃げるように鞄をもって家を出た。