お隣りのあなた。

 

『今日、なの』

先生の言葉が頭を過ぎり、引っ越す日が明日だったら良かったのに、と思った。

――明日だったら、ななちゃんのままを説得できた。

――明日だったら、ななちゃんと久しぶりに話せたかもしれない。

――明日だったら、
――明日だったら、
――明日だったら、

「……な…ちゃんっ、ななち、ゃん……っ」
「菜乃子!!」

唐突な叫び声にも似たわたしを呼ぶ声。お母さんだ。

「あんた先生から電話かかってきて、ビックリ…血でてるじゃない!」
「おか…さん、ななちゃん、ななちゃ、んがっ」

泣いていて上手く伝わらない。喉に何かが引っ掛かっているように上手く喋れない。

ななちゃんが、遠くに――――


「――………!!」


不意に横切った車。

その車の助手席には、
ななちゃんの姿。


「ななちゃん!!!」


大声で叫んで、立ち上がる。ズキ、と痛んだ傷に思わず顔を歪めた。

「ななちゃん!!」

足を引きずりながら歩いた。車に追いつける筈ないとわかっていても、その車を追いかけた。

「ななちゃん!!な、…ななちゃん!!!」


車はどんどんわたしと距離をつくる。
ななちゃんとわたしの距離は広がる。


「ななちゃん、ななちゃん、ななちゃんっ………!!!!」


叫んでも、わたしの声は届かない。
もう、届かない。

車は、ななちゃんは、わたしの視界からいなくなった。

「…ななちゃんっ」


立ち尽くすわたしの肩を撫でるお母さんの手が、やけに寂しく感じられた。