気付いたら、わたしは走り出していた。
靴箱で靴に履き変えて、そのまま走り出す。
「菜乃子ちゃん!待ちなさい!」
先生の怒った声が聞こえたけど、わたしはそれを無視して幼稚園を出た。
幼稚園から家までの道は覚えていた。だから迷子になるという心配は無かったものの、いつもいるお母さんが居なくて少し心寂しい。
ななちゃんのままに、頼もう。ななちゃんのままに、引っ越さないでって頼もう。もしかしたら、引っ越さないかもしれない。
そんな安易な考えは通る筈無いのに、わたしはそれでななちゃんが引っ越さなくても済むと考えていた。
ただ、ななちゃんが遠くに行ってしまうのが恐かった。
ななちゃんと離れるのが、恐かった。
そんな理由だったが、わたしを走らせるには十分すぎる理由だった。
疲れても、止まって休む時間が惜しくて、ひたすら走り続けた。
喉が渇いた。
足が痛い。
疲れた。
それでも、走り続けた。
「…はぁっ…なな、ちゃん」
頭の中でななちゃんの笑顔が過ぎっては、消えた。
