お隣りのあなた。

 

「ななちゃんが幼稚園に来ないのには、訳があるのよ」

観念したように呟いた先生に一気に視線が集中する。もちろんわたしも、先生を思わず見た。


「…みんなわかってるみたいだけど、ななちゃんは風邪ひいてるわけじゃないの。実は、ななちゃんお引越しする事になって、もう幼稚園は辞めちゃったの」

「……―――」



『もし、もしも、なずなが菜乃子ちゃんにひみつにしてることがあるって言ったら、…菜乃子ちゃんは、おこる?』



ななちゃんが言っていた秘密にしてることをその時に理解した。
ざわめく中、わたしはただ呆然としていた。

ななちゃんが、遠くに行ってしまう。
ななちゃんにもう、会えなくなってしまう。

「せんせー、ななちゃんはどこに引っ越すの?」

カナちゃんが唯一園児の中で冷静だった。先生は困ったように笑い、「東京ってわかるかな?」先生は笑っていたけど、全く笑えない。

「……とーきょー」

小さく口の中で反復する。
東京の場所は知っている。前に家族で行ったことがあった。電車で行ったのだが、ものすごく時間がかかったのを覚えている。退屈すぎてどうにかなりそうだった。

「とーきょー………」

そう易々と会える距離ではない。ななちゃんに、本当に会えなくなる。

「いつ、東京に行くの?」

言ったのは目尻に涙を貯めたタケルだった。
先生はタケルの目尻の涙を拭き取ると一言、

「今日、なの」そう言った。