お隣りのあなた。



お母さんが帰って来たのはそれからまた1時間くらい経ったあとだった。疲れているようで帰ってすぐにリビングのソファーに腰掛けた。そしてため息。

リビングに行ってお母さんに話を聞こうとしたら、「もう遅いから寝なさい」と言われて追い払われた。悔しい。少しは教えてくれたっていいじゃないか。

…ななちゃん、大丈夫かな。ななちゃんのままに怒られてはいないだろうか。

心配で心配で直ぐに部屋に戻る事は出来なかった。
だから、悪い事とは思いつつ、リビングのドアに身体をくっつけてお父さんとお母さんの会話にこっそり耳を傾けた。

「ケイコ、昔はあんなんじゃ無かったのに…」

重たいため息と同時にお母さんが言った。「もっとしっかりしてて、常識のある人だったのに」どうして、と。

「神経質になりすぎてるんだよ、きっと」

宥めるような、慰めるようなお父さんの声。

「ほら、沢谷さんちの旦那さんの家って立派な旅館らしいじゃないか。跡取りとしてなずなちゃんを取られるのが怖いんじゃないか?」
「それにしたって……」

沢谷。ななちゃんの苗字だ。ななちゃんが取られるとか、取られないとか。モノを扱うような言い草に少しかちん、ときたが何も言えなかった。