お隣りのあなた。

 

しかしわたしにはそんな事に一々反応していられる程の心の余裕がなかった。

「黙れ阿保ゥ!ちょっとタケル、集合!」
「集合って……もうここにいるだろ」
「いいからツラ貸せや!」
「菜乃子、どうしたの。まるで借金取りみたいよ」
「カナ、わたしは今猛烈に怒っているんだよ。この阿保に対して!この、阿保に対してね!」
「おまえ阿保阿保言い過ぎだろ!」

タケルが耐え兼ねたように抗議の声を上げた。しかしわたしはそれを右から左に受け流し、タケルの首根っこを掴む。まるで蛙が潰れたような「ぐぇ」という声が聞こえたが、聞こえなかった事にする。きっと幻聴だ。

「授業が始まる前には戻るから」
「え、あ、うん」
「ちょ……菜乃子、……首、ぐるしぃっ」

わたしはタケルの首根っこを掴んだまま立ち上がり教室を出る。タケルをちらりと見ると随分顔色が悪かった。青ざめている。さすがにかわいそうになり人気が余り無い所まで来た所で手を離す。
案の定タケルは苦しそうに大きく咳込んだ。