詩織に連れて来られたのは教会本部の北側に建つお御堂だった。
ここでは月に一度礼拝を行い、聖歌隊入隊オーディションもここで行われた。ちなみに、オーディション以外にここに来たのはこれが初めてだ。
幼い頃からマリア教会にいるが、夏季は神への信仰心が薄い。というより皆無に近い。
神よりも歌だったし、月に一度の礼拝も自由参加だったので、いつの間にか神への信仰心も消えた。
まあ、神に祈った所で歌が上手くなる訳でもないし、もう何千年も前に死んだ人間に祈っても仕方ない。
詩織が両開きの扉を静かにゆっくり開けると、中から歌声が聴こえて来た。
「あれが天使だよ」
完全に扉を開き詩織が言った。
「天使…」
夏季は言葉を失った。


