マリア教会

「違うの、夏季」
「だいたい、雪乃はずるいよ」
「え?」
もう止めろ。これ以上言ったら駄目だ。だが言葉は目の前の人に突き刺さってしまう。
「雪乃の歌声はずば抜けて上手くて天使って呼ばれるほどなのに、人前で歌う事が嫌いだから私を身代わりにして…雪乃はずるいよ!」
大声で吐き捨て、夏季はまた雨の中へと飛び込んだ。
背後で雪乃が私を呼んだが、その声は雨の音に掻き消され夏季には届かなかった。