コンサートに向けて毎日歌い続けている夏季だが、この二、三日、歌いたいように歌えなくなっていた。
「……」
聖歌隊での練習を終えてお御堂に向かう夏季だが、その足どりは重い。
寮の廊下を一人で歩きながら、夏季は窓の外を見る。今日はあいにくの雨。窓に当たる雨粒の一つ一つが大きく、それが余計に夏季の心を暗くさせる。
「どうしよう…」
いつもの声が出なくて、しかも声が伸びない。
雪乃にいつも言われてる通り、あまり喉に負担をかけないよう気をつけていたのに、なぜか上手く歌えない。
その事は雪乃もすぐに気付いて、しばらくは練習を止めようと言われたが、それを夏季は断った。
コンサートまで一ヶ月を切っているのに、休んでる暇なんてない。それに、コンサートまでにこの声をどうにかしないと認めてもらう事なんて出来ないし、聖歌隊や雪乃の評価まで下げてしまう。それだけは嫌だった。


