マリア教会

それを聞いて思わず大きな声を上げてしまい、夏季の声がお御堂に響く。
「あんなに上手いのに何で?」
「聖歌隊にスカウトされた事はあるけど、断ったの。私は一人で歌うほうが好きだから」
「もったいない…。それだけの美声なら教会だけじゃなくて、世界中に名を広める事も出来るのに」
きっと一瞬にして雪乃の名は広まり、マスコミも注目して時の人になるはずだ。
だが雪乃は、ありがとう、と言ってマリア像に向かいながら話す。
「私は世界中の人に私の歌を聴いてくれなくてもいいの。私が好きな人達が、楽しく聴いてくれればそれだけでいいわ」
言いながら振り返った顔は、天使のような優しい表情だった。雪乃の背後に立つマリア像よりも雪乃のほうがずっと神々しい。
大きく胸を叩く音がはっきり聞こえ、全身を温かい何かが巡る。
「早速練習しましょうか」
「はい!」
この日、もっと雪乃の事を知りたいと思った。