「なあ、『さおり』って呼んでいい?」
「えっ?」
陽も少し陰りはじめ、私達はカフェを出て、家路に着こうとしていた。
その時、新井から不意に言われた一言。
一瞬、鼓動が高く跳ねた。
よく考えてみれば、男子から下の名前でなんて呼ばれたことなかったかも。
でも、彼氏が彼女のこと、下の名前で呼ぶのは当然だし…
「うん……、いいよ」
私は新井に向かってゆっくり頷いた。
「マジで!?やった!じゃあ今から『さおり』って呼ぶから。…俺のことも下の名前で呼んでくれない?」
「…え?」
うそーーー!?
今まで『新井』で普通に慣れてたから、いきなり下の名前とか呼べないんだけど!!
「付き合ってるのに俺だけ名字で呼ばれるのもおかしいだろ?…まさか、俺の下の名前を知らないって言うんじゃないだろうな?」
「いやっ!!まさか!」
「じゃあ、いっせーのでお互い下の名前で呼ぼう。それなら文句ねーだろ?」
…てか、もはや下の名前で呼ばないといけないって決定事項なのね……。

