「でもな、たまたま生徒手帳から古い紙がはみ出しているのが見えてしまって、その中身を見て驚いた。俺が昔、A中の担任に書いた手紙があったからな。あれでこの生徒手帳の持ち主はさおりだって認めざるを得なかった」
「ごめん…。びっくりしたよね。私がこんなもの持っていたなんて」
あの手紙はもうさすがに生徒手帳には挟んでないけど、今は仕事用の手帳のカバーのポケットに入れてある。
…時々、仕事で行き詰った時にそれを見て、優祐から勇気をもらっているんだ。
「最初はな。俺、てっきり担任はさおりに口頭で伝えてくれたと思ってたから。でも、嬉しかった。こんなものでも大事に持っててくれて。それを伝えようと思って、手紙の下に付け足したんだ」
「『ありがとう』と『頑張れ』……」
「ああ。さおりの気持ちが嬉しくてありがとうってのと、俺は隣にいてやれないけど頑張れって意味。でもな…、あの手紙を見て俺、ハッとしたんだ」
「…どういうこと?」
「さおりは寂しくて苦しんでるんじゃないかって。あの手紙を持ってるぐらいだから、俺のことなんて忘れてない。だけど彼氏がいるってことは、寂しいからなんだと思った」
雪が、うっすらと積もり始めた。
踏んだらすぐに解けそうなほど──。
まるであの時の私たちみたいに、もろい雪だった。

