『あういう奴に会って何で逃げないんだよ。俺がいなかったらどうなってた事か…』
『ごっごめんなさい…。恐くて…』
足を地面に固定されたように動けなくなって、思考回路は停止していた。
不審者にはじめて遭遇して、対処出来なかったのは確かだ。
『まぁいい。お前、ひいらぎ学園だろ?一緒に行ってやるよ』
すぐそこだから、と彼はすたすた歩きだした。
見るかぎり、彼も新入生らしい。
『あ、あの…!』
気付いたら彼を引き止めていた。
『何か、お礼させてください!なんでもします!』
本心だった。
彼に助けてもらわなかったら、あたしは一生あの男のトラウマに付きまとわれて生活することになっていただろう。
だけど、今思えば、これが間違いだったのかもしれない。
次の瞬間、“なんでも”と言ったことに後悔した。
『…なんでも?』
『え、あ…はい』
『じゃあ、俺の言うことは何でも聞くって約束しろ』
『……え…』
『なんでもしてくれるんだろ?なら、文句はないよな?』
確かに、文句は言えない。
あたしは静かに首を縦に振った。
それは、あたしのパシリ生活のはじまりを認めた瞬間でもあった。
