「唯子。」 「…は、はい…」 あたしのベッドの上で雑誌を読んでいる男が、ちょっと低めの声であたしを呼んだ。 「ハンバーグ作って。いますぐ。」 「…はい」 いつまでも慣れないこのハスキーボイスに、あたしは逆らうことができない。 いや、“逆らえたことがない”。 あたしは部屋に備えつけてあるキッチンへ向かった。 …ん? あれ? 「泰雅(タイガ)くん、あの…」 「あ?」 「あの、玉ねぎがなくて…。買ってきてもいい?」 「……寄り道すんなよ」 あたしは泰雅くんにペコッと頭を下げて部屋を出た。