母親が娘の肩にそっと触れる。

 美羽はまだぼんやりしていたが、母親の方を見てほんの少し首を傾げた。

「みうって、カワイイ名前ですね」
 
 何と言っていいか分からなかったので、悠真はとりあえず褒めた。

「ありがとう、美しい羽と書いて、みうと読むのよ。あなたのお名前をお伺いしても?」

「あ、すみません。俺は小切悠真。小さく切ると書いて、おぎりです。学校ではオダギリなんて呼ばれたりしますけど」

「西大路です。パリまでどうぞよろしく」

 優雅な母親だと悠真は思った。そして、娘の方は病気でもあるんじゃないのかというくらい全く持って他人に興味を示す様子がなかった。

 悠真は今でもこの時の出会いを忘れない。