小切悠真が西小路美羽に出会ったのはパリ行き11時20分発の飛行機の中。

 3つ並んだ窓側のエコノミーシートに先についたのは悠真。

 窓側の席で慣れた仕草で搭乗し、靴をぽんと脱いで長時間フライトのための時間潰しの携帯ゲーム機を取り出した。

 悠真の両親は今パリにいる。

 せっかくだから遊びに来なさいと言われてこうして一人搭乗しているのだが、慣れていた。

 高校3年生で、そろそろ大学進学も考えなければならない季節だった。受験勉強前の最後のひと遊びだ。

 クラスメイトの飯島に色々とお土産を頼まれたのは面倒だったけれど、学内でもカワイイと評判の女の子にお願いをされるのも悪くなかった。

 彼女の父親は空港で働いていたとかで母親が客室乗務員だというのもあり、海外に興味があるらしく、悠真と話が合った。

 1人パリへ赴く悠真を空港で見送ってくれたのも彼女だった。

「ここでこれを買ってきてね!」と丁寧なリストと品名が添えられた紙を押しつけて。

 悠真は心のどこかで、飯島は俺に気があるんじゃないか?

 と思ったりしたのだが見送ってくれたのも単に母親を迎えにくるついでだそうだ。はっきりとそう言われて少し調子づいていた心はしっかりと固まった。

 小さな喪失感と一緒にフライトを待っていると、悠真の隣に人が入ってきた。

 親子のようだった。母親と娘のように見えた。