「これから?部活だよ」
教科書を鞄にしまいながら、由梨は答えた。
「そうなんだ。今日暇だし、帰っても誰もいないし、終わるの待ってていいかな」
「えっ?でも、遅いよ」
「ううん。待ってるから」
「わかった。行って来ます」
「頑張って」

窓の外は、すっかり日も落ち、暗くなっていた。

椅子を並べて、その上に寝た僕は、真っ暗な教室の一番後ろで、目を瞑る。
しばらくして、由梨が帰ってくる足音が聞こえて来た。
でも、僕は寝たふりをして、由梨に起こしてもらうのを待っていた。
「北山くん?起きて、終わったよ」
僕は今、気付いたかの様に、ゆっくりと目を開けて、芝居をうった。
「お疲れ様。終わった」
「うん。」
「そっか。じゃあ、帰ろっか」
「はい」
二人だけの時間。
時が経つのを、これほど早く感じたことは無かった。
「ごめんね」
「なにが?」

「こんな時間まで」

「俺が勝手に待ってただけだよ。でも、毎日こんな時間まで」

「大会近いから」

「最後の大会」

「うん」

「ガンバレ」
「うん。ありがと」