君が教えてくれたこと

「優?」
決勝が近付いた時、由梨が話しかけて来た。

「どうして、唯ちゃんのお母さんを呼んだの?」

由梨が不思議そうに、聞いてきた。

「う~ん。内緒。決勝、見てて」
由梨の頭をポンポンっと叩き、僕はステージへ向かった。
決勝が始まった。

最初に歌ったのは、対戦選手だった。
上手過ぎた。
誤摩化しの効かないバラード曲を何のブレも無く歌い切った。
皆、彼女が優勝だろうと、大きな拍手をした。
進行の男が、続ける。
「さぁ、いよいよ決勝!最後はこの方です!!」
僕がステージに上がると、拍手が起こった。

学校祭最後の行事ということもあり、体育館にほとんどの生徒が集まっていた。
「最後は、何を歌いますか?」

「その前に、ちょっといいですか?」

「えっ、はい」
僕は、歌う前に、話したいことがあった。
「あの、少し前、一人の女の子に出会いました。」

僕がしゃべり始めると、体育館が静かになった。
「小学二年生の女の子です。その子の笑顔は、本当に元気を貰えて、僕はその子に会えるのが、楽しみでした。花火大会の日、その子は手術中に急変し、息を引き取りました。今日は、その子に届くように、この曲を歌います」
静まり返った体育館に、曲が流れ始めた。

あの「どんぐりころころ」だった。

・・・

「唯ちゃん、この曲好きなの?」

「なんで?」

「いつも歌ってるから」

「この曲ね、ママが寝る前にいつも歌ってくれるの」

「そうなんだ」

「ママね、すっごく歌上手なんだよ」

「そっかぁ、子守唄なんだねぇ」
・・・

唯ちゃんと話していた事を由梨は思い出した。
「お母さん、この曲」
由梨が、唯ちゃんのお母さんに声をかけた。

お母さんの手には、唯ちゃんの写真がしっかりとステージを見て笑っていた。

お母さんは、由梨に涙を浮かべながら
「ありがとう」と言った。