「あの。これ、俺の携帯の番号なんだけど」
「えっ、うん」

何故、あんなことをしたのか、今でもよく分からない。

前の席に座っていた渡辺由梨に、僕は電話番号とメールアドレスの書いた紙を渡した。

彼女はクラスでも、もの静かで、一言で言えば癒し系・・

あまり目立つ子ではなかった。

身長160センチ以上はあるだろうか。

周りの女子に比べれば、スラッと背が高く、モデルのようなスタイルだった。

友達からは、お姉さん的な存在で親しまれ、何人か彼女に心を寄せている男子も居た。

「あれ?お前、渡辺さんと仲良かったっけ」

席に戻る僕に、本田幸太朗は言った。

「いや、あんまり話した事無い」

「じゃあ、なんで渡したんだよ?渡辺さんだってお前のアドレス知らねぇだろ」
「そうだけど」

岡田の言う通りだった。

北山 優という僕の名前すら、知らない可能性だって、十分にあった。
考えると、何故か急に恥ずかしくなって、僕は教室を出た。

「今日は、寒いな」

携帯のランプが点滅しているのに気付いたのは、夜だった。
由梨からの絵文字のない、初めてのメールだった。