店に入りテーブルに座るなり佐野さんはコーヒーを注文した。
「君はどうする?」
佐野さんが俺に聞く。
「じゃあ、俺も同じもので…」
言うとウェイトレスはにこやかに笑って、かしこまりました、と言って去っていった。その後長い沈黙が流れた。
「…あなたのことは奈々から聞いています」
俺は沈黙を破り、話を続けた。
「奈々と別れてください、俺が言いたいのはそれだけです…」
佐野さんは何も言わなかった。むしろ、その言葉を待っていたとでもいうようだった。彼は煙草を取りだし口にくわえて火を付けた。そして吸った煙を吐き出して言った。
「わかった」
その言葉に俺はほっとした。が、「でも…」と佐野さんは続けた。
「君が彼女を引き取ってくれて良かったよ。正直、彼女をどうしたらいいのか困ってたんだ…」
佐野さんはどんどん口を動かしていく。
「いきなり会社は辞めるし、俺を腫れ物に触るように接してくるし、最近では家を飛び出していった…。もう無理。俺にはお手上げだよ…」

