それは俺が仕事からクタクタになって家に帰ったときだった。夜遅く帰った俺は真っ暗闇なマンションの廊下をふらふらと歩いていた。


部屋が近くなった頃に、小さな人影を見た俺はすぐに止まって、しばらく遠くの方から眺めることにした。


変質者かなー、行きたくねーなー、と心の中で呟きながらキョロキョロと見回す。


「ん?」


よく見るとそいつは何だか見たことある人物。俺は止まっていた足を再び動かして、そいつに近づいた。


「よっ、」


「……何してんだ、お前」


見たことある人物は幼なじみである、奈々だった。奈々は俺の部屋のドアの前にしゃがみこんで、首にぐるぐる巻き付けたマフラーに顔半分を埋めていた。


「お前いつからそこにいたんだよ」


聞けば奈々は、うーん、3時間はいたかな、と平気な顔で答えた。俺が、連絡くらいしろよ、と項垂れていると奈々は、よいしょ、と言って立ち上がった。


「そんなことどーでもいいから、中に入れくれない?寒くてしょうがないわ」


鍵を取り出す俺に奈々は、早く早く、と俺の腕を叩いて急かした。