電車から降りると私は早足で改札口へ向かった。切符を入れて駅から出てすぐに、携帯を耳にあてる。


3回目のコールで、もしもし、と男性の声が聞こえた。


「泉です。今、駅の前にいるんですけど」


「あ、やっぱり。もう着いちゃいましたか?ごめんなさい、今会社を出たばかりだからどっか近い所で暇潰しててください」


わかりました、と言おうと思ったときには携帯の中から、ツー、ツー、と音が聞こえたのでやめた。


ため息をついて、駅のちょうど隣にある喫茶店に足を向けた。



彼、久遠(くとう)まもるさんは、普通のサラリーマン。


前に家出をした日、雨に濡れたビショビショの格好で雨宿りをしていたら、急に久遠さんに声を掛けられた。


「傘無いの?」


急に声を掛けられたこともあって黙っていると、目の前に青い傘が現れた。


「これ、使って。多分、今日はずっと降ってるし、君、このままだと風邪引いちゃうよ」


そう言って久遠さんは私の手を取って傘を持たせた。久遠さんはそのまま、鞄で頭を覆って雨の中へ駆け抜けていった。


私は呆気にとられたままそれを見届けることしかできなかった。