純は走っていた。

あちこちから悲鳴や呻き声の聞こえる通りを走って、仕事場である工事現場へ。

車でも30分はかかる郊外の建設現場だ。

人の足で走ると一時間はかかる。

そこに出向いた後、純はその足で自宅まで走って戻る気でいた。

往復二時間以上の道程だ。

体力を消耗するし、何より家で待っている筈の雄大を長い間孤立させなければならない。

心配なのは当然だった。

こんな時くらい私情に駆られて、我が子を一番に助けに行きたいと考えるのが普通。

しかし純は自他共に厳しい人間だった。

彼女は土木作業員の中でも主任を任されている。

責任ある仕事だ。

そしてこんな緊急事態だからこそ、責任者は現場を優先させなければならない。

自宅に電話しても出ない雄大。

それでも私情を押し殺し、純は現場に向かったのだ。