幸羽は狼狽する。

早く蟲を摘出しないと、手の甲からどんどん上へと移動している。

急がないと手遅れになってしまう。

それでも。

「お前が逃げないんなら俺が移動するぜ!」

激痛に右手を押さえたまま、天野はゾンビを引き付けるように走り始めた。

幸羽から故意に遠ざかり、彼女にゾンビが寄っていかないように。

先程まで自己保身だけ考え、他者を踏み台にしようとしていた男とは思えない行動。

寄生虫に侵入された右手が痛くてたまらない。

発狂して喚き散らしたくなるような激痛。

しかしそんな中でも、不思議な事に充実感を感じていた。