灰色の作業着、手にしたトートバッグには昼食の弁当と軍手とタオルを入れて。

「じゃあ行って来るからね。知らない人が来てもドア開けちゃだめよ?」

「うん、行ってらっしゃいママ」

手を振る雄大に。

「こぉら」

純は軽く頭をコツンとやった。

「来年からもう小学校上がるんでしょ?『ママ』は卒業。『お母さん』だろ?」

「そか、うん、いってらっしゃいお母さん」

「…よし」

柔らかな髪の毛をクシャクシャと撫でて、純は玄関を出た。

マンションの階段を小走りに下りて、愛車に乗り込む。

少し出かけるのが遅くなってしまった。

最近すぐに道路が渋滞するから、出勤時間には前にも増して気を遣う。

エンジンをかけ、彼女は出発した。