陰島での過酷なまでの逃走劇。

何人もの仲間を失い、ようやく命からがら島からの脱出を果たした秀一。

彼は日常生活に戻って、己のある変化に気づく。

…虚無感。

過酷過ぎる島でのサバイバルは、秀一の心の中から大事な感情の一部を奪い去っていた。

何より彼の心に変化をもたらしたのは、仲間である一人の女性を見殺しにしてしまった事だった。

桜庭梨紅。

結果的に仕方がなかったとはいえ、秀一は彼女を見捨てて島を脱出した。

この場に彼女がいたとしても、きっと秀一の事を恨んだりはしないだろう。

むしろ彼女は秀一を生きて脱出させる為に、自ら犠牲になったのだ。

しかし秀一はそうは思わない。

今でも夢の中、何故見捨てたのかと這いずってくる梨紅の姿に魘されて目を覚ます。

何もかも背負い込み、何もかも割り切れず、何もかも捨てられない。

それが中井秀一という不器用な男だった。