走り続けるのに限界が来た私は立ち止まってゆっくり深呼吸をした。
こんなに走っても南の姿が見えないなんてっ。
何気なく前を見ると、誰かの学生鞄が落ちていた。
駆け寄ってそれを持ち上げると、可愛いウサギのマスコットがぶら下がっていた。
『南の鞄だ…』
どうして鞄がこんな所に?
やっぱり南の身に何か起きたんじゃっ!
《…フフフフフ》
見覚えのある感覚に、背筋が凍った。
またあの声だ。
でもどこから?
周りをキョロキョロと見回して、少し後ろの方にあった路地裏を見つけた。
《…フフフフフ》
中を覗いた瞬間、また高らかな笑い声聞こえた。
日は沈みかけて路地裏から光を徐々に奪っていっている。
日が沈めば待っているのは真っ暗な世界。
私は勇気を出して一歩一歩慎重に路地裏の中を歩き出した。
「アイツ、何やってんだ?」
その様子を、ビルの屋上から双眼鏡で男は見ていた。
「全く、面倒な仕事増やしやがって」
斜めに垂れ下がる長い前髪をかき上げて、双眼鏡から目を離した男は溜め息を付き、一瞬で姿を消した。
最初っからそこに存在しなかったかのように…。