数分前、南は塾に向けていつも通りの道を使って歩いていた。

消して明るい気持ちでは無く、気持ちが沈んでいるように見えるのは一目瞭然。


「また莉菜に話せなかった」


その事がずっと後悔したまま頭の中をぐるぐると回る。

南は親との距離感で悩んでいた。
いつも慕われるのは成績優秀な姉の方。
それに比べて落ちこぼれの私は、まるで端から居なかったように誰も見てくれない。
それが辛くって塾に入ったのに、成績は上がりもせず下がりもせず平行線を辿るばかりで何も変わらなかった。

一層の事、このまま消えてしまいたい。
私なんか消えても誰も気にしない。


《ソレガオマエノヤミカ》


背後から聞こえた気がしたが、振り返っても誰もいない。
聞こえた筈の声の主はどこにも姿が見えず、恐怖で背中が凍った。


《オマエヲラクニシテヤル》

「楽…に?」


さっきまで怖いと感じていたのに、気が付けばその声に答えていた。


《イッショニラクニナロウ》

「一緒に…」


言葉に反応するように、体にまとわりついていたモヤが南の体を包み込んだ。

次第に南の目は生気を失い、力を失った手から鞄を離してしまった。