私は、誘惑に勝った。勝ったのだ。

和田の顔に安堵の色が伺い知れる。

誘惑に敗れ人生を棒に振った落伍者など何人も見て来た。

だけど…そいつらと私は違うのだ。

そう言わんばかりの表情を浮かべる和田の顔を覗き込んだ梓はニヤニヤしながら

「ふぅ〜ん…な〜るほどねぇ」

と何やらウンウン頷いている。

それを見た和田は、

「な…何がなるほどなんだ?」

と明らかに狼狽した様子…

「いやいや大体の事は解ったし…それよかセンセが名札の直し方せっかく教えてくれたけん早よ直さなね」

そう言ってトイレに向かう梓の姿を見た和田の身体は、溢れんばかりの汗が腋の下をじんわり濡らしていた。