でも僕は見てしまった。


車輪が異国の男と会っているところを。


車輪よりもずっと背が高くて、車輪に「アイラビュー」と言って手を握っていた。


僕にだってそのくらいの英語は分かる。


愛していると言っていたのだ。
 

車輪は泣いていた。


僕以外の人の前で泣く車輪を初めて見た。


「今さら何言ってんねん」
 

持たれた手を振り離すように車輪は大きく手をぶんと引いたけど、その男は手を離さなかった。


「ショーンは自分の国の女と結婚したんやろ」
 

男は悲しそうに目を細めた。


「仕方がなかったんだ」


「仕方がないなんて理由にならん。選んだのはあんたや」
 

そう言われてその異人はやっと手を離した。


車輪はそのまま走って行ってしまったけれど、きっとその男はかつて、車輪の恋人だった男なのだろう。


僕の知らない車輪の、影にあったものを見た気がした。