「嫌だよ」
 

そう言って、うっとうしく僕の上に垂らされた車輪の髪をどけるために彼女の体を押し返したけど、車輪は僕を真上から見下ろしたままピクリともしない。


「車輪、こそばゆいから」
 

そう言って僕が笑いかけるまで車輪はその手を僕に絡みつかそうとするのをやめなかった。


「こそばゆいだけなん?」
 

車輪は狐のようにするどい目の端を少しだけ下げた。


それは僕が彼女のことを嫌いだと思っていないと分かったからだと思う。
 

たしかに車輪は気軽に人から『車輪姉さん』などと呼ばれていたけれど、決して好かれてはいなかった。


その肌の白さは美人薄命を根づかせた結核を思わせたからだ。