灰色の羽

パトが家に入るのを見送ってから、さっきから電話口で沈黙してるやつに話した。


「とにかくあんたは三十分以内にうちに来なさい!いいわね?!」


「え?でもおれバイトが…」


「来なさい。」


語気を強めてそれだけ言うと通話を切った。
これだけ言えばあのバカでも理解したはず。


「マキ」


家の中からのパトの声で、すぐにドアを開けて玄関でブーツを脱ぎながら、なに?と返事をした。

「いまお湯ためてる。その子見てあげて。」


「わかった。あ、お湯は少し熱めにして!きっと体が冷え切ってる!」


バスルームに入ると脱衣所にちいさくその子は座っていた。
すぐに駆け寄って話かけた。

「ごめんね、寒かったでしょ。」


自分の口調の優しさに驚いた。


「いまお風呂入れてあげるから、服脱ごっか。」

話かけてもその視線は虚空を見つめる。返答はない。というか表情筋にすら変化がない。


近くで見つめるとこの子の細さがわかる。


疲労か、もしくは体温の低下せいで感情がとまってる、と思うけど、
たぶんその両方…


私はくちびるを噛んだ。

え?


その瞬間に疑問が、


なぜ私がイラつくの?



「服、ぬがすね」


いいや、自問自答は後回し。今は…


話しかけてもきっと耳には入ってない。
けど、話しかけないといけない気がした。


その子を立たせて羽織っていたバカのパーカを脱がせた。



細い、




腕も足も肩も首も、骨に皮がついているだけのような感じだ。


着ている白いワンピースも泥で汚れている。


肩紐を腕から抜いてストンと布を落とした。


「……っ!」


息をのんだ、



あまりに痩せた体、
アバラがういてみえる、


そして、少女は下着を履いていなかった、



そんなことよりも…



そう、






そんなことよりも…




私は目をふさぎたくなった。



彼女の全身には、




無数の、




傷と、




あざがあった。