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桐野くんは例え、他人の食うメロンパン1つの為と言えど妥協などしない男だ。

そう、オレは全力だった。

全力でスタートダッシュを切り、全力で廊下を駆け、コーナーもダウンフォース(階段)も最速を試みた。


「なのに何で売り切れてるッ!!??」


おかしい……

今日のオレは最速ラップを叩き出した。

なのに、昨日の昼休みに[柿金一世]がモグモグ食ってたあの“幻のパン”が売り切れてる!!!!

何故だ!!!???


(スッキリしねぇなー……)


納得のいかない現実にイライラを重ねつつ、オレは売店のオバチャンからメロンパンを購入した。


(一体、どうやってあのガキは手に入れてんだか……)




っと、ここでふと気づいた。


(アレ……そう言えば、確か“幻のパン”は店頭に2つ並ぶって聞いたんだが……)


昨日、柿金がオレの席で食ってたコッペパンは1つしかなかった。

じゃあ、もう1つはどこに消えた……??

噂を鵜呑みにするなら、あの売店には毎回、柿金以外にもう一人の人物がオレよりも早く現れていることになる。


「……………」





嗚呼、摩訶不思議也。


“幻のパン”の行方や何処に――………