千鶴子が片方の手に人形を抱き、体中が脱力でもしているようにうなだれて道端で倒れていた。
 ひと目見て千鶴子だと分かったが、沖は声をかけなかった。少し離れた所で壁に背中をまかせて千鶴子の様子を観察する。
 すると、時々鼻がむずがゆくなるようで、千鶴子は持っている人形の手で自分の鼻をかいていた。
服はいつから変えていないのだろう。声はどれくらい出していないのだろう。
 浮浪者が千鶴子の隣に来て座った。仲間だと思ったようだ。