ケーキ屋の角を曲がった。

ピンク色のケーキの箱を持ったトナカイが怒ったような俺の顔に笑顔を向けた。
釣られて微笑みそうになって、あわてて俺はもう一度奥歯をかみ締めた。


こちらに背を向けた彼女の姿が見える。

もう少し、あと少し。

彼女がもたれかかったクリスマスツリーの緑

彼女のバックを彩る空の青

彼女の隣に立ったサンタクロースの赤

全てが色あせて見えた。


「ゆきのん」

彼女がそっと静かに振り向いた。
彼女が放つ白い光が俺を浄化して、心臓が喉の奥につっかえる。
俺は大きく息を吸い込んで喉の奥から吐き出す。

「・・・その・・・・あの」

言葉はこんなにもどかしくて、口から外に出てこない。

ああ、これじゃ感受性の豊かな彼女に笑われるかな?
クスリと笑わせてくれたり、切なくさせてくれたり。
彼女の感性なら俺の気持ちをもっと上手く文章にできるのかもしれない。

彼女に伝えたい言葉をこぼさないように、ずっとかみしめて歩いてきたのに・・。


言い古された言葉だけど・・・。
今日は俺にとって世界で一番大切な日だから。

こんなしどろもどろじゃなくて、かっこよく君に伝えたい。
その笑顔がもっとステキに輝くように。


俺は肺いっぱいに深く空気を吸い込んだ。
この世界に舞い降りてきてくれてありがとう。


だから。

めいっぱいの想いをこめて。

この言葉を。



「ゆきのん、誕生日おめでとう」