渇望－gentle heart－

「無理して何かを変える必要なんてないし、立ち止まったら見える景色もあるんだからさ。」


涙ぐむ百合をまた抱き締めた。



「大好きだよ、百合。」


お前が不安ならさ、いくらだって言ってやるよ。


例えばそれが、気休め程度にしかならないのだとしても、たくさん伝えてやりたかった。


救いたい、だなんて大それたことを言いたいわけじゃなくて、でもそれだけは、いつも俺の真ん中にあるんだ。


信じることが怖いなら、それでも良い。


目に見えた確かな繋がりを求めるのなら、何だってあげる。


百合はさ、自分の中で、ゆっくりと、色んな事と向き合ってくれれば良いからさ。



「ばあちゃんだって、百合のこと大好きって言ってたよ。」


「…うん。」


「だからここは、ちゃんとお前の居場所だろ？」


そうだね、と彼女は言った。


そして下手くそな顔で小さく笑う姿を見て、優しい気持ちにさせられたんだ。


きっと、百合といることで、俺自身が救われていたのかもしれない。


あの街に染まっていた自分が心のどこかで憎いままで、だから俺だって過去から逃げたくなる時があったよ。


けどさ、お前の隣にいる時だけは、そんな、自分が積み重ねてきたものと向き合えてたのかもしれないな、って。



「ありがとう、ジュン。」