渇望-gentle heart-

「ほら、百合!
ちゃんとお礼の電話しなきゃ!」


言ってやると、少し考えるように押し黙った彼女は、意を決したように携帯を取り出した。


ありがとう、元気だよ、という会話を横で聞きながら、何故か俺まで嬉しくなったんだ。


俺の家族はもう壊れてしまった。


けどさ、百合の家族はきっとこれからなのだろうから。


確かに過去は変えられないけれど、でも、だからこそ、これからどうするかだと思うんだ。



「あたしね、許すとか許さないとか、そういうのよくわかんないんだ。
でも、今はちょっとだけくすぐったい感じ。」


電話を切った百合は、そう言ってはにかんだ。



「そりゃあ俺のおかげでしょ。」


「うっざーい。」


俺達の関係は、きっと兄妹のそれに近いのかもしれない。


何だかんだ言いながらも、届いた振袖を嬉しそうに見つめている百合。


ばあちゃんまでも、その輪に加わって、どこどこの染物だとか、帯留がどうだとか、色々と教えてくれた。



「きっと百合ちゃんに似合うだろうねぇ。」


ばあちゃんが言って、



「いや、百合は腹黒いから黒が一番似合うっしょ。」


俺が茶々を入れ、



「ジュン、今日のご飯なしね。」


「おいおい、そりゃねぇだろ!」


「うっさいよ、バーカ!」


そんな一日だった。


次第に百合が心から笑ってくれる日が増えて、俺たちなりの毎日を紡いでいたね。