渇望-gentle heart-

俺は百合の望むことをしてあげられてたかな。


一緒にいることで、お前は少しでも楽になれていただろうか。


縁側で膝を抱えている時もあれば、外を歩いて笑顔を零すこともあったね。


けれど、そうやって日々を繰り返しながら、百合はきっと、過去を消化していたんだと思う。


三人で温泉に行ったよね。


冬景色に染まる山に散策に行って、季節外れのどんぐり拾って帰ったりさ。


俺にとってもあの時間は、多分人生で一番優しくて、そしてかけがえのない思い出だよ。


百合を愛してた。







「百合、でっかい荷物届いてるよ。」


それは、年が明けてすぐのこと。


宅配便として送られてきたのは、大小様々な大きさの箱で、全ては百合に届けられたもの。


差し出し人は、お父さん。



「なぁ、これって振袖じゃない?」


「…えっ…」


「だって百合、成人式じゃん。
お父さん、きっとわざわざ全部買い揃えてくれたんだよ。」


白と百合色を基調とした、決して派手ではないけれど、でも清楚なそれ。


百合のお父さんという人は、気を使ってか、俺らの前に進んで現れるようなタイプではない。


けれど、何も言わずにこういうものを送ってくるのは、あの人らしいとも思う。


人は過去を悔んで生きるものだ。


だからお父さんだってきっと、今は離れているけれど、でも百合のことちゃんと想ってるんだよ、って。