Drawing~君と僕と~

「死んだらどこに行くのかな。」

僕はふと思ったことを口に出してみる。

「何もない所に行くのよ。そして誰かに私の絵でも描いてもらって、絵の中で生きるわ。」

沖野さんはそう言って、遠くの景色を眩しそうに眺めている。

深い理由はわからないにしろ、沖野さんは何か大切な事をを抱え込んでいるのかもしれない。
僕と同じように、ずっとずっと抱え込んできたものが。

僕は彼女がいった「似ている」ということが、少しわかったような気がした。

僕と彼女が抱えているもの・・・それは死ねば楽になるものなのだろうか?


「僕も、死のうかな・・・」

「あなたが死のうと死ななかろうと、私にはどうでもいいことよ。私が死ぬといったからって、同調しないで欲しいわ」

「ち、違うよ、前からそう思ってたのはあるんだ・・・この世界からいなくなれたら、どんなに楽なんだろうって。」

僕は少しためらってから、また話し始める。

「・・・僕、昔から友達を作るのが苦手だった。父親は仕事一筋の人で転勤が多かったし。
唯一僕を見てくれていた母親は、僕が中学の頃にトラックの事故で亡くなった。」

僕は以前いた街のそれぞれを思い出しながらゆっくりと話す。

「どの街も、大体1~3年くらいでいなくなってた・・・。いや、3年もいなかったな、せいぜい長くて2年半程度だった。
ここに来る前は別の町にいたんだけど、そこでもやっぱり僕は友達を作れなかった。作り方がわからないんだ。
新しい場所には短期間しかいられない。どうせまた転勤することはわかってる。
それにそのクラスにはもう世界が出来上がっていて、僕はその世界の人々からすればよそ者にしか過ぎない。
僕の為の椅子や机はあるけれど、僕がそこに入るスキマはない。
結局僕にはその世界のスキマに入り込むことはできない。
何が悪かったんだろう?第一印象だろうか?それとも話し方だろうか?何年も考えたんだ。
でも何年も考えてようやくわかったことは、自分の知らない世界に入っていこうと思える勇気がなかったってこと。それだけだった。
でも今それがわかったところで、自分にはどうすることもできない。勇気なんて簡単に出ない。結局、これから先も僕は同じ事を繰り返していくんだと思う」